海外でプレーしても常に日本代表を意識していると語る<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 6月9日朝、マスカットからバンコク入りした日本代表は、移動当日は休息し、翌6月10日夕方からタイ戦へ向けた練習を開始した。しかし、中村俊輔は、長友と共に別メニュー調整を行った。

 「昔から何度か痛くなる右足首が、オマーン戦後から痛くなった。試合翌日、昨日と休んだけれど、まだ痛みがあるから。今日の練習ではテーピングを巻いて、動いてみたけれど、やはり痛みがある。ホテルに戻っても超音波で治療したり、試合に間に合わせる努力はしている。試合出場については、まだどうなるかわからない」

 中村の表情は堅い。とは言え、「ホームのタイは一番やっかいな相手」と試合へ向けた気持ちは高まっている様子だった。

 6月7日、1−1という結果のオマーン戦後、中村はひとつの手ごたえを感じていた。

 「すべては1点目だった。先に失点したことで、ゲームプランは少し変わった。でも自分たちのサッカーを貫けた。ボールを動かし、相手も動かすことが出来たから、後半オマーンはほとんどロングボールしか蹴ってこなかったでしょ。そして1点を取り返して、そこまでは良かった。ただ最後のところで、あと1本がなかった。でも逆に言えば、そこまでは出来ているということ。やってきていることは間違っていないし、チームは前に進んでいると思う」

 2006年ドイツワールドカップを振り返り、「もっとチームに連動性があればよかった。味方選手の二人の関係だけじゃなくて、三人目の連携、連動が出てくれば、日本は強い相手と対戦しても戦える」と話す中村。だからこそ、選手間のパイプ作り、チームの形を作ることを最も重要なテーマとして、今回代表へ合流している。

 「僕は外(海外)でプレーしているから、そう何度も代表でプレーできない。だから点を取ったり、良いパスを出すのも大事だけど、自分が(チームに)いる時の形を作っていくことでアピールしたい。昔から思っていたことや、感覚をチームメートへ言ったり、もちろん指示だしたり。もう年齢的にも上の立場になったしね。フォーメーションを決めるのは監督だけど、やるのは選手だからね」

 岡田ジャパン初参戦となった、キリンカップ、パラグアイ戦後も「一番遠い位置の選手だからこそ」と逆サイドの長友との会話を重ねている。自分の引き出し、アイディアを若い選手へも伝えたいという思いが感じられる。また会話を重ねることで、チームの連動性が高まり、チーム力が進化していることを俊輔も感じている。

 「ゲーム中に『どうするべきか』という修正ができる。ハーフタイムまでズルズル引っ張ることなく、修正が出来るから、ハーフタイムにはまた次の修正を施せる。その辺りで、チームとして出来上がっている」

 中村の積極的な姿勢が、チームを活性化させている。そして彼のポジティブな意識もチームの進化を後押しするだろう。

 「ワールドカップアジア予選を勝ち抜くことは、もちろん重要なこと。突破しなければ話にならない。でも、僕はそこだけを見ているわけじゃない。強い相手と戦っても互角、もしくはそういう相手と戦って勝ちたいから。だから、今日のオマーン戦だけを見ているわけじゃない。『もっと強い相手とだったらどうだったか?』と試合後はそんな話もした。今日は誰々がよかった、誰々が決めたっていうので、終わっているんじゃ、次につながらないからね」

 アジアとの対戦だけを意識していると、欧州や南米、アフリカなど他大陸の“敵”との試合をイメージしづらい。だからこそ、俊輔はアジアよりも“高いレベル”の相手を意識することを忘れない。

 「ヨーロッパに来て、強いチームと対戦するたびに“日本代表”がこの相手と戦ったらどうなるんだろうと考える」と話す中村。

 「自分が学生時代から、俊さんの試合は代表でも良く見ていた。そういう選手の話は自分にとってもプラスになるし、本当にサッカーのことを深く考えている人。意識も高いし、勉強になることが多い」と今野は中村の考え方に刺激を受けている。

 世界中のツワモノが集まる欧州を知る中村が、日本代表を進化させる。短い合流期間だが、その密度が濃厚にすることは、中村にとっても、日本代表にとっても重要な“きっかけ”を生むはずだ。

text by 寺野典子

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