チーム2点目となった遠藤のPK。記憶と記録に残るこのシーンは、記憶に残らない長谷部のプレーを布石としていた<br>(photo by Kiminori SAWADA)

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 サッカーの試合で、記録や記憶に残るプレーはごく一部である。得点やアシスト、警告や退場、ファインセーブや見事なクリアは公式記録や新聞に載り、人々の記憶にも刻まれる。しかし、それらは90分の攻防のごくわずかを切り取ったに過ぎない。

 バーレーン戦の前半40分だった。長谷部誠が右サイドからドリブルで持ち上がっていく。突破を強く意識したものではなく、ボールを運んでいくようなプレーだ。

 前半終了間際のこの時間帯は、チーム全体の活動量がやや落ちていた。必然的に足元へのパスが多くなり、前への推進力を出せずにいた。そんなときに長谷部が、一気にボールを持ち込んでいったのである。

 浦和レッズでの彼が、小野伸二らを退けて先発をつかんでいたのはなぜか。岡田武史監督は、長谷部の何を評価しているのか。

 ボールをゲインできるからだ、と僕は考えていた。パスを使うのでなく自らボールを運んでいくことで、彼は中盤と前線をうまくつなぐことができるのだ。そういうプレーが必要な局面で、さりげなく、しっかりと。

「ドリブルで仕掛けると、相手はなかなかついてこない。誰もついてこないので、いい形でチャンスが作れた。ただ、そういうプレーをもっとできればよかったんですが。自分のプレーには、満足していません」

 長谷部のパスを受けた田中達也がCKを獲得し、そこからつかんだFKが2点目のPKにつながった。2点目のきっかけと言うのもはばかられるから、長谷部のドリブルを記憶にとどめる人はたぶん少数派だろう。それでも、間違いなく価値のあるものだったと僕は考えている。


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