日本の「10番」はさらに進化を続けている<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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「ナラ(楢崎正剛)さんは負けたみたいに落ち込んでいるけれど、闘莉王が『俺のナイス得点だから』って言ってたり。そういう明るい気持ちで修正したほうが絶対いいし、そうじゃないと勝ち点3を取った意味はないから。下を向く必要がない」

 9月6日バーレーン戦終了後、記者の前に姿を見せた中村俊輔はさっぱりとした表情で試合を振り返った。もちろん、2失点したことへの落胆はあるだろうが、それを悔やみすぎたところで失った2点が取り戻せるわけもない。それ以上に勝ち点3を取れたことを「よかった」とし、失点によって見えた課題を修正しなければならない。そんな彼の姿勢が感じられた。

 記者の質問に応える中村は次第に課題について話し始めた。

「フワっとしたクリアじゃなくて、もっとヘディングでコーナーのほうに転がすとか」「相手は1人少ないんだから、ボールを蹴ってくる相手に徹底的について、蹴らせないようにするとか、ボランチをDFラインに吸収させてしまうのも手だと思うし……」「交代で入ってきた選手はゲームの流れに乗ろうというようなプレーをしていたけれど、中の選手は疲れているんだから、もっと激しくやったり、走り回ったり、味方が助かるくらいの勢いというのが、大事になってくる」など、様々なシチュエーションで気がついたことを選手名をあげながら口にする。そのたびに「本当に小さなこと、細かいことなんだけどね」と繰り返す。「その小さなことを感じるかどうかで、(選手の)成長は大きく違ってくる」と以前にも語っていた。

 チームについても同様で、拮抗した試合ではなおさら「小さいこと」が、勝敗の行方を左右する大きな違いへと繋がっていく。中村はそのことを過去のサッカー人生の中で学んできた。「小さなこと」の重要性を感じて欲しいと、チームメイトへ促していく。

 代表でチームメイトと共有する時間は少ない。ましてや欧州でプレーしている彼に与えられた時間はさらに限られている。だからこそ、積極的に意見交換の場を生み出そうとしているようだ。

 5月末、岡田ジャパンに初合流した中村は「形を作りたい」と何度となく話していた。そして6月、1カ月間の合宿生活と4試合を消化。2か月後の9月2日にバーレーンでチームに合流し、「2ヶ月間の空白を感じないくらいにスムーズに合流できた」とチームのベースが存在していることを確信した。

「いろんな相手がいるし、暑さもあるから、戦い方というのは多少は違ってくるけど、チームに土台があるのが大きい。そこからスタートできるから。やっぱり6月の1カ月間が大きかった。チームがひとつになっている手ごたえ大きく感じた。もっと大きく一丸になれると思う。」

「イナ(稲本潤一)とか試合に出れないけど、それでも水を運んだりしてくれた。そういうのが非常に大きいし、僕らもそういう選手たちのためにも良いプレーをしなくちゃいけない」

 冒頭の闘莉王のエピソードからもチームの結束の強さが伝わってくる。バーレーン戦で中村を最も驚かせたチームメイトは田中達也だった。

「今日の試合で一番良かったのは達也だと思う。以前一緒にやった時よりもずっとよかった。わずか1ヶ月であっても選手が成長することはできるはず。監督もいつも言っているけれど、もう1ランク上、もう1ランク上のプレーを意識しながら、何かできないかと考えていくことが大事」

 思いもよらぬ予想外の相手のプレーを「来るとは思わなかった」と振り返った内田篤人に対し、「来ると思わないところから来るのがサッカーだから」と話した。様々なことを想定して準備する。臨機応変に対応する力は、そう簡単には身につかないのかもしれない。数々の経験が選手の引き出しを増やすことは、中村も理解している。20歳の内田に伝えたいのは「いろんなことを意識すること」の重要性だったのだろう。意識するかしないかで、その行動やプレーも変わってくのだから。