【石井紘人コラム】W杯最終予選、勝負を分けたレフェリング
南アフリカW杯行きをかけたアジア最終予選がついに始まった。
バーレーンとの初戦をアウェイにて3−2で勝利した日本代表だが、負けてもおかしくなかった。残り5分でバーレーンに2点を奪われ、追い上げられたことだけを指摘しているのではない。
レフェリングという観点からだ。
この試合の笛を吹いたバジル・マリク主審は細かいファールをかなりとる審判だった。
18分に中村俊輔の素晴らしいフリーキックで先制点を奪った日本だが、そのきっかけとなった玉田圭司が受けたファールを、とってくれない審判もいる。背を向けている玉田に対し、バーレーンのDFは足を出したので当然ファールだ。ただ、ボールにいっているという観点から考えるとノーファールと判定することもできるし、玉田の倒れ方を演技と捉える場合もある。
66分には、モハメド・ハサンが抜け出そうとした田中達也を倒したということで2枚目の警告を受け退場となったが、これも微妙なジャッジだった。
確かに田中は一瞬抜け出したものの、ゴールまで距離があったし、日本が田中一人しかいないのに対し、バーレーンは付近に3人いた。田中が抜け出していてもゴールを奪える確率は低かったように見えた。さらに、そこまで悪質なファールでもなく、倒れずにドリブルしようと思えばできたはずだ。
また、35分に松井大輔が警告を受けたが、これもそこまでのファールではないように見えた。ボールを奪われた松井が、ボールを奪いにいき、相手の足を踏む恰好となった。もちろん、足を狙っていたようには見えない。ただ、その一連の流れから報復行為と捉えられ警告を受けたのだろう。
このように、バジル・マリク主審はファールに対し非常に細かかった。バーレーンは大味なチャージを仕掛けてくるので、日本にとってこの主審はうってつけだったのだ。
逆に、あまりファールをとらない主審だったら、玉田のファールが流されて先制点も生まれず、バーレーンのラフ気味のチャージが何度も流され、モハメド・ハサンも退場しなかったかもしれない。負けてもおかしくなかったと思える理由だ。
アジアのレフェリーは、基本的にJリーグほどレベルが高くない。たとえば中国で行なわれた2004年アジア杯では、バーレーンとの準決勝で、40分に遠藤保仁が相手の顔に手をかけたということで退場となった。しかしスローで見ればわかるとおり、手はまったくかかっていなかった。ただ、このときの主審のポジションからは手がかかっているように見えたのだ。
主審は見えたもの、起きた出来事に対し、判定を下す。だから、当時の主審にとってその判定は間違いではなく、審判のレベルが低いとそういう判定も現れるという最たる例だろう。
だからこそ、日本の選手たちはレフェリングの“基準”を見分けなければいけない。
ドイツW杯3位決定戦で笛を吹いた上川徹氏(現:日本サッカー協会トップレフェリーインストラクター)は、「外国の選手たちは、立ち上がりに審判の基準を見てくる」と教えてくれた。どこまでがノーファールで、どこからがファウルか、その試合の判定基準を立ち上がりに把握するのだ。ペナルティエリアでのファールに厳しいのか、緩いのか。それを頭に置いておけば、プレーの選択が変わってくるはずだ。
日本代表の実力がグループ内で飛び抜けているとは思わないが、普通に考えれば予選を突破できるだろう。ただし、想像通りにいかないのがサッカーで、その一つにレフェリングがある。
いつもより厳しい判定で退場をうけたり、ファールをとってもらえなかったり。それにより対戦相手との実力差が埋まる場合もある。そうならないためにも、審判の基準をしっかりと見極めること。そして、審判の笛を待ったり、頼ったりしないサッカーをすることが重要となる。
バーレーン戦のスコアは、結果的に1点差だった。ちょっとしたことでひっくり返る点差に、レフェリングとの戦いの重要さを改めて感じた。(了)
石井紘人/ Hayato ISHII
某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。
バーレーンとの初戦をアウェイにて3−2で勝利した日本代表だが、負けてもおかしくなかった。残り5分でバーレーンに2点を奪われ、追い上げられたことだけを指摘しているのではない。
レフェリングという観点からだ。
この試合の笛を吹いたバジル・マリク主審は細かいファールをかなりとる審判だった。
18分に中村俊輔の素晴らしいフリーキックで先制点を奪った日本だが、そのきっかけとなった玉田圭司が受けたファールを、とってくれない審判もいる。背を向けている玉田に対し、バーレーンのDFは足を出したので当然ファールだ。ただ、ボールにいっているという観点から考えるとノーファールと判定することもできるし、玉田の倒れ方を演技と捉える場合もある。
66分には、モハメド・ハサンが抜け出そうとした田中達也を倒したということで2枚目の警告を受け退場となったが、これも微妙なジャッジだった。
確かに田中は一瞬抜け出したものの、ゴールまで距離があったし、日本が田中一人しかいないのに対し、バーレーンは付近に3人いた。田中が抜け出していてもゴールを奪える確率は低かったように見えた。さらに、そこまで悪質なファールでもなく、倒れずにドリブルしようと思えばできたはずだ。
また、35分に松井大輔が警告を受けたが、これもそこまでのファールではないように見えた。ボールを奪われた松井が、ボールを奪いにいき、相手の足を踏む恰好となった。もちろん、足を狙っていたようには見えない。ただ、その一連の流れから報復行為と捉えられ警告を受けたのだろう。
このように、バジル・マリク主審はファールに対し非常に細かかった。バーレーンは大味なチャージを仕掛けてくるので、日本にとってこの主審はうってつけだったのだ。
逆に、あまりファールをとらない主審だったら、玉田のファールが流されて先制点も生まれず、バーレーンのラフ気味のチャージが何度も流され、モハメド・ハサンも退場しなかったかもしれない。負けてもおかしくなかったと思える理由だ。
アジアのレフェリーは、基本的にJリーグほどレベルが高くない。たとえば中国で行なわれた2004年アジア杯では、バーレーンとの準決勝で、40分に遠藤保仁が相手の顔に手をかけたということで退場となった。しかしスローで見ればわかるとおり、手はまったくかかっていなかった。ただ、このときの主審のポジションからは手がかかっているように見えたのだ。
主審は見えたもの、起きた出来事に対し、判定を下す。だから、当時の主審にとってその判定は間違いではなく、審判のレベルが低いとそういう判定も現れるという最たる例だろう。
だからこそ、日本の選手たちはレフェリングの“基準”を見分けなければいけない。
ドイツW杯3位決定戦で笛を吹いた上川徹氏(現:日本サッカー協会トップレフェリーインストラクター)は、「外国の選手たちは、立ち上がりに審判の基準を見てくる」と教えてくれた。どこまでがノーファールで、どこからがファウルか、その試合の判定基準を立ち上がりに把握するのだ。ペナルティエリアでのファールに厳しいのか、緩いのか。それを頭に置いておけば、プレーの選択が変わってくるはずだ。
日本代表の実力がグループ内で飛び抜けているとは思わないが、普通に考えれば予選を突破できるだろう。ただし、想像通りにいかないのがサッカーで、その一つにレフェリングがある。
いつもより厳しい判定で退場をうけたり、ファールをとってもらえなかったり。それにより対戦相手との実力差が埋まる場合もある。そうならないためにも、審判の基準をしっかりと見極めること。そして、審判の笛を待ったり、頼ったりしないサッカーをすることが重要となる。
バーレーン戦のスコアは、結果的に1点差だった。ちょっとしたことでひっくり返る点差に、レフェリングとの戦いの重要さを改めて感じた。(了)
石井紘人/ Hayato ISHII
某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。